猫と暮らせば 〜楽園にお引っ越し

2010年07月28日 at 12:50:40 pm


吉本由美
さて、
友だちカモちゃんのお誘いで
猫の飼い主には“楽園”のようなマンションへ
・・・の話です。

(じつはまだ現在もそこに暮らしているのですが)

築20年というほどほどに古いマンションの
1階の小庭付き部屋に入居したのは13年前の1997年6月でした。
ペット共生マンションがいくつか建ち始め、
ペットと暮らす新しいライフスタイルとして話題を呼んではいたものの、
まだ一般的には
「集合住宅における動物の飼育は禁止」が当たり前の時代。

そういう中でカモちゃんの住むマンションは
(前回も書きましたが)ちょっと変わっていて、
犬やら猫やらがごくごく自然に飼われているということでした。
カモちゃんもグレという猫を1匹飼っていて、
出勤前、建物の外庭に放すと、
夕方管理人さんが部屋に戻して下さるそうです。
コソコソ隠れ飼いをしている者は、
うそ〜〜〜〜、と、のけ反りたくなりますよね。
まるで楽園ではないかしらん、と。
私は部屋の持ち主との賃貸契約で入りましたが、
カモちゃんは一年前に7階の小さな部屋を購入しました。
ここはもともと分譲マンションで、
住人の多くはご自分の家として長く住まわれているといいます。
住人同士が顔見知りだから互いへの配慮が生まれるのでしょう。
すると、迷惑をかけない限りはペットがいてもいいじゃないか、
ということになって、
このような楽園状態が生まれたのでしょう。

そうですよね。
集合住宅におけるペット飼育問題勃発の元凶は
隠れ飼育にあると私は思います。
コソコソしなければならないからストレスが生じる。
ストレスが溜まるから違反が起きる。
違反があるから対立が生まれ、
排除や拒絶に繋がっていく・・・と思うのです。
鳴き声が聞こえたって、知っていれば気になりません。
「あのコが鳴いているんだな、どうしたのかな」と思うだけ。
飼い主も、ペット飼育をみなが知っていると思えば違反はできませんしね。

ま、とにかく、夢いっぱいで引っ越し当日を迎えたわけです。
コソコソ暮らしのアパートメントを出て行くときは万歳しました。
車でおよそ20分後“楽園”に到着。
猫カゴの中でわあわあ喚き続けているター坊をなだめながら
マンション入口ドアを開けると、
オッ、やばッ、人がいる!
つい、これまでの習慣でホールに誰かいればギクッとおののき
引き返そうとしましたが、
よく見るとご婦人お二人の人影で、
それぞれに犬を抱いて談笑中のようでした。
そこにいきなり猫の喚き声が割り込んだから、
抱っこされている犬2匹が反応して、
ぎゃんぎゃんわあわあホール中が大騒ぎになりました。
けれどご婦人お二人は動じることなく
「あら,猫ちゃんだ、お引っ越し?」、
「どんなコちゃんかな? チッチッチ」と、
満面笑みで寄ってこられた。
やはりカモちゃん話は本当なのだと悟りました。
ここではコソコソする理由は何もないみたいです。
ほんとに“楽園”かもしれないようなスタートでした。

ター坊はこれが三度目の引っ越し。
恐怖心より好奇心のほうが勝っているので、
彼に環境の変化によるストレスは生じません。
新しい部屋に放しても固まることなく、
いや尚更ズンズンズンと活発に探検しまくり。
こういう図太い神経は飼い主には救いですね。
部屋の隅から隅までを嗅ぎまわり調べ上げたのち、
ガラス戸越しの庭を食い入るように見ていました。
これまでの空しかなかった光景から一変し、
目の前に広がるは、緑、緑、また緑。
10年前の生まれ故郷六本木西公園を思い出しているのか、
背中にちょっぴり野生の蘇りを漂わせながら
いつまでもいつまでも見ていました。

内庭の外に外庭がぐるっと広がり、塀の向こうは断崖に。

今までの空の代わりに庭を眺めるター坊。隣は石の猫。

翌朝、出勤前のカモちゃんが
右手にグレ入り猫カゴ提げて外庭から声を掛けました。
グレを庭に放すついでに
ター坊と“ご対面”させようという計画なのです。
ター坊はこれまで動物病院に行ってもなぜか猫と居合わせたことがなく、
おばあさん猫メエが死んで以来猫を見たことがないという状態だし。
グレはグレで、
自分の大切な縄張りに、
部屋の中であれ見知らぬ猫の姿があれば、
とてもすましてはいられないだろうし。
きつい性格の2匹ゆえ、
この対面どうなることかと、
私とカモちゃんは昨夜からわくわくなのです。

グレは広尾界隈をねじろにしていたノラの女バンチョーで、
面倒を見ていたカモちゃんが
一年前の転居に合わせてここへ連れてきました。
食事と寝床の心配はなくなったものの、
ノラの習性で外に出なければ気が済まないグレ。
引っ越してしばらくの間は、
不安だったがカモちゃん祈るような思いで毎日、
“出勤前外に出し、帰ってから部屋に入れる”を繰り返していたそうです。
しかし編集者の彼女の帰りは夜中におよぶこともしばしばで、
そんなときグレはマンションの玄関わきにじっと座って待っていた。
ノラ歴・地域猫歴の長いグレならではの賢い判断でしたが、
いったいどこの猫かと人目を引き始め、
それを見かねての管理人さんご夫婦の
「わしらが夕方取り込んでおきましょうかね」
という申し出だったらしいのです。
この話を聞いて
私はグレにも管理人さんご夫婦にも一目置くことになりました。

賢く美しい雌猫グレ。年齢不詳。

さて“ご対面”ですが、
カゴから出たグレの縄張りパトロールは、
まず外庭を一回り。
草むらの中を悠々と歩き、匂いを嗅いで、また歩く。
次いでそれぞれの内庭(ウチと両隣3軒の庭)へ,という手順らしく、
いつまでたっても、部屋の中で
何年ぶりかに見た同族の姿に騒いでいるター坊には近づいてくれません。
わざとウチの庭入りを遅らせているような気配あり。
一枚上手な感じがします。
結局“ご対面”一回目は
部屋の中でター坊がばたばた騒いだだけという結果でした。
騒ぐ姿が癇に障ったらしいグレが
「シャーッ!」と二度ほど窓ぎわまで威嚇しに来て、終わり。
威嚇されてもターはニタニタしておりました。
荒くれ者、乱暴者、アウトロー、と信じて疑いもしなかった“私の不良”が、
意外やヤワな坊ちゃんに見えた初めての体験でしたね。

その日の昼時「ヨシモトさーん、猫ちゃん見せて〜」と
管理人さんご夫婦がいらっしゃいました。
おじさまが「ターちゃんは外国の猫かね?」。
おばさまが「それにしても立派な猫だワ」。
ついさっき彼のヤワな面を見た立場としては面はゆくなるご質問。
70代前半と思しきお二人は広島県出身で、
もう十数年もこのマンションの管理人を務められているとのこと。
様々な人の暮らすマンションで
住み込み管理人の仕事がそれだけ長く続くというのは、
住人との関係がうまくいき、
信頼されている証しと言えます。
力強い味方を得たような安心感が生まれました。

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